イムフルは災害や疫病をもたらす悪しき風であるという側面や、あらゆるものを吹き飛ばす暴風であるという側面、
吹き付けたものを削り取る砂嵐であるという側面などをもつ「7つの悪風」のうちの一つであるともされています。
そのためイムフルはそれ単体で武器として使用されたというわけではなく、
イムフルを含めた7つの悪風こそがマルドゥクの振るった武器なのです。
先に7つの悪風は様々な側面を持つと記述しましたが、
資料によってはイムフルが病魔や災厄を運ぶ悪風を示す名前であるとしています。
バビロニア神話上でイムフルは7つの悪風としてマルドゥクがバビロニア神話における原初の創造にして混沌の象徴たる女神
「ティアマト」をある理由から討伐する際に使われた武器です。
イムフルはそれ以外には使用されたという記述がないことや、
その武器としての特異性から知名度としてはいまいちなのかもしれません。
ただ、このイムフルがなければ女神ティアマトを討ち滅ぼすことも出来ず、
ティアマトの討滅が果たされなければ後の天地創造も行われなかったため、
バビロニア神話上において重要な位置にある武器だとも言えるでしょう。
登場の機会こそ少なく、
一般的な武器のイメージとはかけ離れているためか知名度自体は所有者のマルドゥクに比べて控えめなイムフルですが、
先に述べたとおりイムフルなしではバビロニア神話における天地創造はなされなかったと言えるほどに
重要な役割を果たした武器でもあります。
この項では、そんなイムフル最大の見せ場が登場するバビロニア神話の創世神話である
「エヌマ・エリシュ」をご紹介いたします。
バビロニア神話における原初の創造と混沌を象徴する女神「ティアマト」は
女神とはいうもののその姿は巨大なウミヘビのようであり「大洪水を起こす竜」とも言われていました。
そんなティアマトはこの世界に最初に淡水から生まれた神「アプスー」を伴侶として様々な神を生み出しました。
ティアマトとアプスーが生み出した神々はとても騒々しく、次第に二人は生まれた神々を不快に思うようになりました。
そこでアプスーはティアマトに生んだ神々を滅ぼすように提案します。
ティアマトはとても寛大な心を持つ女神でした。
そのためティアマトは「生まれた神々の行いは不快だけど優しくしてあげようよ」と神々を滅ぼそうとする
アプスーに反対します。
ティアマトに計画の反対を受けた後、アプスーは自らの息子である霧を司る神「ムンム」に神々の殺害の計画の同意を得て
それを実行しようとします。
ですが、この計画は工芸や水などを司る神「エア」によって察知され、
アプスーはエアに魔法を掛けられ深い眠りに落ちたところを殺されてしまいます。
その後、死んだアプスーの上にエアは自身の神殿を建て、自らの妃である「ダムキナ」との間に子供を設けます。
これこそが「マルドゥク」なのです。
エアとダムキナの間に生まれたマルドゥクはとても優秀な力を持つ神で、その力は父親のエアよりも優れていました。
そんな優れた力をもつマルドゥクの誕生をとても喜んだメソポタミアの最高神「アヌ」はマルドゥクに4つの風を贈り、
マルドゥクはそれで遊びます。
そのせいでティアマトの塩水でできた体は大きくかき乱され、
ティアマトの体内にいる神は眠ることができなくなってしまいます。
ティアマトの体内に棲む神々は「このままマルドゥクたちに騒がれてはたまらないから神々を殺してしまおう」
とティアマトを説得します。
この説得にティアマトは応じます。ティアマトは自身の2番目の夫である
「キングー」を最高神の地位に据えて指揮官の立場にします。
その配下には11の魔獣の軍団をつけ、神々との戦いに備えました。
神々も滅ぼされるわけにはいかないと、マルドゥクをティアマトたちとの戦いに選定します。
マルドゥクはその圧倒的な力を振るい、それを見たキングーはすっかり戦意を喪失してしまいました。
そこでティアマトはマルドゥクに直接挑みかかります。
ティアマトはマルドゥクを丸呑みにしようと口を大きく開きました。
ここでマルドゥクは「イムフル」を使うのです。
マルドゥクは大きく開かれたティアマトの口にイムフルを始めとした7つの悪風を送り込みます。
それによってティアマトは口を閉じられなくなってしまうのです。
マルドゥクはその隙を逃さず、ティアマトの心臓を弓矢で射抜いて殺すのでした。
マルドゥクはその後、キングーから最高神の印たる「天命の書版」を奪い、
キングーの血を「人間創造」に使いました。ティアマトの死体は「天地創造」の材料とすべく2つに切り分けました。
こうして天地創造と人間創造を行ったのがエヌマ・エリシュという神話なのです。
このようにイムフルがなければマルドゥクはティアマトに丸呑みにされて天地創造は行われなかったのかもしれませんので、
とても重要な役割を果たしているといえますね。
風属性
イムフルはその所有者であるマルドゥクに比べて驚くほど現代のゲームやアニメでの登場がない武器です。
おそらくは無形のものなので武器としてのイメージをもたせにくいことが原因でしょう。
ただし、知っている人は知っている武器ですのでTRPGなどでキャラクターを
作る際にそのキャラクターの持つ能力の名前として使うという方はいるようです。